杜氏が酒蔵の酒造におけるトップだということくらいは誰もが知っているんだろう。

でもその下に書かれた役職についてはほとんど知らない。

「杜氏のすぐ下にいるのが『(かしら)』と呼ばれている。杜氏は蔵人一人一人に直接指示するんでない。直接するのは頭にだけだ。そして頭から下へと伝達していく。それから麹屋(こうじや)は麹用蒸し米の取り込みや、室の仕事の一切を行う。その下の酛屋(もとや)は酛立ての仕事すべてを行う。醪の仕込みも酛屋だ。杜氏から酛屋までを三役と呼んでいる」

三役の役割は重要だ。
すべての工程が当然大切ではある。
ではあるが、麹と醪の仕込みが悪ければいい日本酒はできない。

「それから釜屋、船頭、炭屋、道具廻し、追廻(おいまわし)の順で役割分担されとる。アンタは一番下っ端の追廻だ」

「追廻…」

「追廻の仕事は主に洗いものや米洗い、水汲みだが、アンタには追廻の手がまわらんことをしてもらう。当分は追廻の下について指示を仰ぐんだ」

「はい…」

「今、うちには追廻が三人おる。一番年長の…迫田(さこた)に話を通しておくけん。ヤツについてくれ」

「わかりました…」

「迫田は温厚な性格だけん。問題はないがな…」

迫田さんは温厚。
すると後の二人はそうじゃないのかもしれない。