玄関に立ったまま、声をかけようかどうしようか迷う。
すると廊下に人の歩く音が響いた。

玄関に顔を覗かせたのは雪穂だった。

「加賀見さん!上がっていただいてよかったのに…。もしかしてずっと待っていらしたんですか?」

「…勝手に上がるのは…ちょっと…」

「大丈夫です。これからは勝手に上がってさっきの部屋の前で声をかけてください。もし父が不在ならあたしに。あたしの部屋は玄関を上がって右に行った突き当たりの部屋ですから…」

「はぁ…」

そう言われても…なんだか不躾な気がして。

「ホントに!大丈夫ですから!」

「わかりました…そう、させてもらいます」

俺達が玄関で話していると、部屋から父親が出てきた。

「何しちょうか、そげん玄関先で」

「加賀見さんが勝手に上がるのは悪いと仰って…」

「そげなことは気にせんでええ。そげん習慣だけん。ちょっとこっちへ入り」

父親に言われるがまま、部屋に入る。

「そこに座り」

「はい」

「今から酒蔵の仕事を簡単に説明する。それからこれを」

父親は白いつなぎのようなものを差し出した。

「これが制服だ。といってもまだアンタは酒造りそのものには関わらんでええ。下働きでもこれを着て作業してもらうけん」