「加賀見さん…」

玄関の戸が開き、雪穂が俺を呼んだ。

「はい」

「あの…ホームセンターが開いているうちに必要なものを揃えたほうがいいんじゃないでしょうか?」

「そうですね。今、いるものをメモってたんです」

「すぐに行けますか?」

「はい」

彼女と一緒に庭へ出る。

一台の軽自動車まで近づいて彼女がキーで解錠した。

「乗って下さい」

免許持ってたんだ。
そうだよな…。こっちの人は皆移動は自家用車だと話していたもんな。

「狭くて申し訳ありません」

「大丈夫ですよ。免許持ってたんですね」

「高校を卒業してすぐに取りました。こっちでは必需品なので」

「この車は…?」

「あたしの、です…。父がずっと保管してくれていたみたいです…。定期的にメンテナンスもして…タイヤも…替えてある…」

雪穂は最後のほうで涙声になった。

「あなたがいつ帰ってきてもいいように…してくれていたんですね。お父さんの愛情が…伺えるな…」

俺がそう言うと、雪穂は号泣した。

しばらく泣かせてやりたい。
万感の思いが今、彼女の中に駆け巡っているはずだから。

しばらく泣いた後、彼女は言った。

「ごめんなさい…。取り乱して…」

「いえ…。当然のことだと思います…」

そして彼女はエンジンをかけた。