「だったら…」

再び父親が俺に言いかけたところで止まった。
なぜか言いにくそうにしている。

「なんでしょう?」

「うん…雪穂と関係ないアンタがなんでわざわざ東京からこんな辺境まで来たんかと…不思議でな」

「酒蔵で修行したいんです」

「それは…誰のためだ?」

え?
誰のため、と問われて。
彼女のためだと言い切るのはまだ時期尚早ではないのか。

「自分のためです」

「日本酒に興味のないアンタが?」

「職人の仕事がしたいんです」

「そんな甘いモン違うぞ」

「わかっています…。甘えるつもりはありません…」

「アンタ、もしかして…」

「はい?」

「…いや…ええわ。本気でやりたい言うならやってみらんね」

「え…?」

「ここで修行してもええ、言うとんのだ。言っとくが蔵人になるのに酒が飲める飲めんは関係ないけん。ここのモンも半分は日本酒飲めんヤツらだ」

「そうなんですか…。飲めなくてもいいんだ…」

いやいや、そうじゃなくて!
そんな悠長に感想述べてる場合じゃねーだろ?

ホントに…許してもらえたんだよな…?

俺は安堵のあまり脱力しそうになる。

「アンタどこに住んどる?」

「えっ…と…住まいは…まだ…」

「うちの離れが空いとるけん。そこで寝起きすればええ。家財道具も布団も一式揃っとる。足りんモンがあれば自分でなんとかせぇ」

そんなに…してもらっていいのだろうか?
まだ海のものとも山のものともつかないのに。