「それで日本酒がええと?」

「正直に申し上げると私は…日本酒には興味がありませんでした。でも雪穂さんから日本酒の素晴らしさを聞いているうち…やってみたいと…思うようになりました」

父親は腕を組み、再び目を閉じた。
沈思黙考…正にそういう風情だ。

そして沈黙が続く。
緊張感が漂う中。
俺もずっと黙ったまま、父親を真っ直ぐに見つめる。

漸く父親が目を開き、言葉を発した。

「アンタ…雪穂をどげん思っちょる」

え…
なぜ突然そんなことを?
俺の気持ちがまた駄々漏れだったとか?

「お父さん、それは関係ないでしょう?」

雪穂が俺に出してくれた助け船。
だが俺はそれに乗っちゃいけない。
そうでなければ。
彼女の幸せを願う権利はない。

「雪穂さん。ちゃんとお話します。隠し事などなく、すべてを話します」

「加賀見さん…」

俺は背筋を伸ばし、父親を見据えた。

「お父さん…私は、雪穂さんに特別な感情を持っております。でも、お付き合いしているわけではありませんし、雪穂さんに気持ちを伝えてはいますが、ただそれだけです。私たちは仕事上で知り合った…関係というだけです…」

「雪穂は…アンタと付き合うてるんじゃないのか…」

「はい」

「そげか…」