「お父さん…ご無沙汰して申し訳ありません」

まず雪穂が先陣を切り、父親に謝罪した。

「……」

目を閉じている父親は何も応えない。

雪穂は続ける。

「東京で、生活していました…。こちらは加賀見さんといって、仕事で知り合った方です…」

俺の名が出たからには挨拶しなければ。
そう思い口を開きかけた。

「あの…初めまして、」

が、すぐに父親に遮られる。

「蔵人の修行をしたいと聞いたが」

「あっ、はい!」

「アンタ、日本酒は飲めるんか?」

「えっ…、はい。少しだけ、ですが…」

「日本酒のどんなところが魅力だ?」

日本酒の魅力…
正直、ほとんど飲んだことがない日本酒の魅力を語るのは不可能だ。

「言えんのか?」

父親が鋭い眼差しで俺を見る。
恐らく俺が本気で言っているのかを見極めたいのだ。
過去の苦い経験があるから…

少なくともいい加減なことは言えない。
この人には綺麗事は通じない。
直感的に俺はそう思った。

それなら。
正直に話すしかない。

「私は日本酒の知識はほとんどありません。本を買って俄に勉強した程度です。ただ、すべての職人がそうだと思いますが、ものづくりにかける情熱。それには感銘を受けました。伝統を守りながら新しい挑戦もしている。そんな姿勢に打たれました。私も…自分が情熱を注げる仕事がしたいと、そう思ったんです」