雪穂について入った先は純和風建築の二階建ての家。
玄関から上り框も風格を感じさせる。

廊下を進み、ある部屋の前で雪穂は足を止めた。
そしてそのまま廊下に正座する。
しっかりと閉じられた障子。
おそらくここに彼女の父親がいるのだろう。
俺はゴクリと唾を飲んだ。

「お父さん、雪穂です…。長らく失礼して…ごめんなさい…」

雪穂はそう言って、誰もいないのに頭を下げた。

「入り」

重低音の声が響く。

「失礼します…」

雪穂は正座から少しだけ腰を浮かせ、右手に左手を添えて障子を引いた。

そして一礼する。

背後にいる俺をチラリと見てから雪穂は中に入った。

「お父さん、あの…実は今日は…」

「藤原さんから聞いた。お連れも一緒に入り」

俺は大きく深呼吸をしてから雪穂に続いて中に入った。

「失礼します…」

広い和室の中央に置かれた長方形の座卓。
その辺の短い側に、床の間を背にして座っているのが、彼女の父親。

見るからに威厳がある。
さすが蔵人を束ねる杜氏。
俺は緊張も手伝い、何も言えないままだった。

「そこへ並んで座り」

父親が自分の向かい側を指した。

雪穂が先に座り、俺も隣に座る。
当然正座で。
雪穂との間隔を近すぎないよう、少し離した。