雪穂はもう何も言わなかった。

二人で店を出て、再び実家へ向かった。

「車が…父の車があります…」

「そう…ですか…」

ここからが本番だ。
どんなことを言われようと怯まない。
誠意を以て向き合うだけだ。

今度は俺も一緒に事務所へ入った。

「雪穂さん、ちょうど良かった!今、社長が…」

事務員がそこまで言って俺の存在に気付く。

「あれ…」

「藤原さん、この方蔵人志望なの」

「えぇ!?」

雪穂に言われて事務員は俺を品定めするように見る。

「こん方が…?」

どういう意味だ?
俺には無理だとでも言いたいのか?

「そうなの。それで…連絡もせずに来てしまって申し訳なかったけど…父に会わせてもらえるかしら…」

「ち、ちょっと待ってくださいよ」

事務員はオロオロしながら奥へと消えた。

会って…くれるだろうか…?
それがなきゃ始まらない。

すぐにバタバタという足音が聞こえ、さっきの事務員が戻ってきた。

「あの…母屋へ来て欲しいそうです」

雪穂は事務員に頷きかけると俺のほうを振り返った。

「行きましょう」

俺は無言で頷き、雪穂の後ろをついて行った。