それにしても。
地元の話をしているときの雪穂はまるで水を得た魚のようだ。

やはり彼女はこの土地を愛している。
そんな場所を出て行かなくてはならなかった彼女の心痛は如何許だろう。

東京(あっち)にいても自分の居場所などなかったのではないか。

だから、おじさん以外の人間とは距離を置き、ひっそりと暮らしていたのではないか。

それなら尚更、彼女の居場所に根を下ろさせてやりたい。

そのために俺ができること。
酒蔵での修行をやり遂げ、彼女の父親に認めてもらう。

いや、俺のことなんてどうだっていい。
彼女が再びここで、彼女らしく生きていけさえすれば。
俺のことを好きになってくれずとも、構わない。
彼女を見ていて。
自分よりも彼女の幸せを考えたとき。
自然にそんな結論に至った。

「加賀見さん?どうか…しましたか?」

いけない。ボーッと考え込んでしまっていた。

「すいません、なんでもないです。なんとしてでも修行させてもらいたいと…考えていました…」

「本当に…やる気、なんですね…」

君のために。
君が本来いるべき場所に君が永遠にいられるように。

だがそれは今はまだ…

言うまい…。

「もちろんですよ。反対されても諦めません。粘り強く頑張ります」

「加賀見さん、でもあたしは…」

「わかってます。あなたの気持ちをどうこうするのではなく…俺が修行したいんです」