しばらくすると雪穂が出てきた。
その表情は優れない。
やはり、ダメだったのか…。

「ごめんなさい。お待たせして…」

「いえ。それで…どうでした?」

「今、父は杜氏の会合で出掛けているようなんです。小一時間ほどで戻るみたいですが…」

「そうですか…」

藤原(ふじはら)さん…あ、事務の方なんですけど、上がって待っていればどうかと言ってはくれたんです。でも…」

「気乗りされていない様子ですね」

「父の留守に勝手に上がり込むのはちょっと…」

今の親子関係ならそれもそうだ。

「少し散歩でもしますか?」

「え?加賀見さん、この寒さの中で大丈夫なんですか?」

確かに…
でもこのままここで待っているより、歩いたほうが少しは暖かくなるんじゃないだろうか。

「やっぱりさっきのタクシーを呼びましょうか。それで今日は一度引き上げて…」

「引き上げるって…どこに?」

「念のため宿泊施設を予約してあるんです。そこも徒歩では無理ですけど、一番近いので…」

そこまで考えていたのか。

「やっぱり散歩しましょう。ここからそう遠くまで行かないで、お父さんが戻られる頃合いを見計らって戻れば」

「そう…ですね」