タクシーが徐々に減速し、大通りから脇道へ逸れる。
少し行ってから運転手がブレーキを踏んでギアをパーキングに入れた。

「着きましたけんね」

「ありがとうございます」

雪穂は料金を払いながら運転手に言った。

「もしかしたら…帰りまたお願いするかもしれません。大丈夫でしょうか?」

「はぁ、そげならこん名刺を渡しときますけん。この番号にかけてもらったら」

「すみません…。どちらにしてもご連絡します」

「ええですよ。こげん季節は客もそげにおらんけん」

運転手はそう言って笑った。

タクシーから降り立つとそこには。
小さな平屋の建物と奥には巨大な建物があった。

「加賀見さん、ちょっと待っててもらえませんか?」

「え?」

「とりあえずあたしが一人で行きます」

「あ…はい。わかりました…」

「寒いのにごめんなさい」

雪穂はそう言って小さな建物の中に入って行った。

それにしても本当に寒い。
吐く息はもちろん白いし、手袋の中の手も凍るように冷たい。

そしてまだ溶けきっていない雪の量。
これでも少しは溶けているというのだから、その降雪量は恐ろしく多いのだろう。
空気は冷たいが、とても澄んでいる。
いわゆるマイナスイオンかもしれない。
山や木や、自然が作り出す空気。

俺は心が洗われるような思いでその場に立っていた。