君はまるで雪のように

幼少期。
俺は母と姉に甘やかされるだけの人形だった。
そして成長してからも努力せずに初めから持っている容姿の力で生きていた。

それに気付かせてくれた啓子を。
憎んだ。
啓子の言うことを否定しながら、実は言われるとおりだとわかっていたんだ。

結局。
俺はあのころとなんら変わっていないんだ。
自らを肯定し、否定する者は排除して生きていたんだ。

そんなことをしている限り、俺はいつまでも変われやしない。
だから。
俺は己を真に肯定するために修行する。
己を見つめ直す。
これは彼女を得られなくとも俺がやるべきことだ。
やらなきゃならないんだ。

「お願いします…。やらせて下さい…」

俺は深々と頭を下げた。
そして雪穂は大きくため息を吐く。
そのため息は何を意味するのか。拒絶か。はたまた受諾か。

「加賀見さん…。わかりました。そこまで仰るのなら…行きましょう。あたしの実家へ…」

「雪穂さん…」

「そこで…見習いとして…やってみてください…」

ほんとに…?
夢じゃ…ないよな?

あ…
なんだろう、この胸の熱い想いは…

「男がなに泣いとる…」

突然の店主の声。
泣いてる?
右手で頬をなぞると液体が指に触れた。

泣いていた。
自分でも無意識のうちに…

「す、すいません。なんか…感無量で…」

「…これからだ。何もかも。…頑張れよ…」

店主の温かい言葉に俺は…
しばらく涙を止められなかった。