「ハハ…そう言われればそうでした…」

「それに…アンタは簡単に言うが、蔵の修行は中途半端な気持ちじゃできんぞ?特に見習いのうちはのぅ。辛いことばかりだ…」

簡単にできるなんて思ってない。
職人の修行が厳しいのはわかってる。
でも…
彼女とずっといられるなら。
それしか道がないのなら。
迷うことなんて一ミリもないだろ?

「我武者羅にやるだけです…。必ずやり遂げて…雪穂さんと幸せになります…」

鳩が豆鉄砲を喰らったような…とは正に今の彼女の表情を言うのだろうか。
呆気にとられているようにも見える。

俺自身も現段階でここまで言うつもりはなかった。…はずだった。
だが言ってしまったものは仕方がない。
それに…
覆すつもりも、ない。

「ア、アンタなぁ…いくらなんでもまだ雪穂の気持ちがわからんいうのに…」

「雪穂さんの気持ちがわからなくても。俺はそのつもりだと、そういうことです」

「そういうことって…」

「雪穂さんが受け入れてくれるなら俺は。迷わず今の仕事を辞めて雪穂さんの地元に戻り、蔵で修行します」

言いきった。
なんとも言えない心地よい清涼感で全身が満たされて。
この店の中すら、さっきよりも明るく見える。

だがそれは俺だけの想い。
彼女は同じじゃなかった。