「恋愛…結婚だったんですか？」

答えにくい質問だと承知の上で尋ねる。
予想どおり、彼女は言い淀む。

だがすぐに俺の目を真っ直ぐに見据え、彼女は言った。

「高校の同級生だったんです。卒業後に…付き合って欲しいと言われて…。男の人と付き合ったことがなかったので、迷いました。それに…おじさんの言ったとおり、蔵の跡を継がなくてはいけませんから…お婿さんに来てもらわないといけないし。だから、いい加減な気持ちなら無理だと思ったんです…」

「いい加減な気持ちじゃなかった、と…」

「あのころのあたしは…そう言われたら寸分も疑いませんでした…。婿養子も跡を継ぐのもオーケーと言われ、心が動きました…」

初心(うぶ)な彼女の泣き所を突いたのだ。
ズルい。でも、本当に手に入れたいならそれくらいはするかもしれない。
俺もきっと同じだ。
違うのは、俺なら途中で逃げたりしない、それだけだ。

「俺は…逃げません…」

「え？」

「俺は…あなたと結婚できるなら、修行も厭いません。辛くても耐えられます」

「おい！加賀見さん！アンタまだ雪穂にオーケーもらっちょらんに、何を言い出すがや？」

あ…
思わず本音が漏れてしまった。
でもいざ口に出してみると。
それが俺の一番の願いであると…
実感した。