「浮気していたんですか?あなたという人がありながら…」

「まったく気付きませんでした…。確かに蔵の修行は厳しくて、ストレスが溜まっていたようでしたけど…まさかそんなことになるなんて…」

そのとおりだ。
彼女と結婚したいがために酒蔵に入り修行すると決めたんだろ?
修行が甘いものでないことくらいわかんねぇのか?
わかんねぇわけねぇだろーが!

修行が辛いから不倫して、相手と逃げて、彼女を置き去りにして。
まるで畜生だ。
目先の欲に溺れて人を平気で踏みにじる…。
自己中心的なヤツ。

そんな男に傷つけられた上に、今でもトラウマに苛まれている。
許せない…。

怒りで震える拳を強く握る。
もし今、目の前にソイツがいたら。
間違いなく俺は一発殴っていただろう。

「おい!大丈夫か?」

店主に呼ばれて我に返る。

「すみません…。あまりに腹が立って…自分を見失いかけました…」

俺の言葉に店主は安堵したのか、表情が緩んだ。

「初めからワシは反対だった…。雪穂が騙されてる、思うてな。実家の酒蔵は地元だけじゃなくてネットでも人気の蔵元での。地元では名士なんだわ。アイツはそれが…名声が欲しかっただけだ…」

そのために彼女を利用したと?
バカな…
彼女はまんまと騙されたっていうのか?
そんなわかりやすい野郎に…?