いずれは皇帝の子を産むことも、皇后としての璃鈴の義務だ。特に今のように皇太子が存在しないこの国にとって、皇帝の子を産むことは最重要事項に位置する。後宮へきて数か月になるが、璃鈴には自分が身ごもっているという自覚はまだなかった。

 同衾すれば子供ができると思っていたが、龍宗の言い方だと、子を授かる方法というものが何かあるらしい。


「作り方……陛下は知っているのですか?」

 からかったつもりが真面目な目で聞かれて、龍宗は少しばかりひるむ。

「理屈は知っているが、まだ試したことはないな。だから、もしかしたら、お前が満足するようにはできないかもしれない」

「満足……? 私が、ですか? 龍宗様は、満足できるのですか?」 

 龍宗は、璃鈴の頬を人差し指でなぞった。はりのある白い肌が、龍宗の指をひかえめに押し返す。その感触で、ざわりと自分の奥に熱がうごめくのを、龍宗は感じた。


「想像でしかないが、おそらくできるような気がする。お前の身も心も自分のものになったと確信できた時を思うと、今ですら身震いするほど気分が高揚するのだからな」

「私のすべては、とっくに龍宗様のものです。それとも、今以上にもっと、私は龍宗様のものになることができるのですか?」

「やってみれば、きっとわかる」

 話しているうちに、璃鈴は龍宗の目が熱を帯び始めていることに気が付いていた。そういう時はたいてい、龍宗が口づけを求めてくるときだ。この数か月で、璃鈴はそう理解していた。


 龍宗は、璃鈴の頬に触れていた指を滑らせて、そのなめらかな髪の中にさしこむ。小さな頭を片手で包むと、龍宗は、ぐ、と璃鈴の頭を引き寄せた。


 龍宗の熱を受け止めることに、璃鈴も慣れてきていた。初めての時は触れるだけだった口づけも、最近はその時間が長くなってきた。慣れてくれば、離れる時には寂しいとすら思ってしまう。時折唇を甘く噛まれれば、全身が震えて今まで吐いたこともないような甘い吐息が漏れた。早くなる自分の鼓動に息苦しさを感じても、璃鈴はその感覚すらも次第に気持ちいいと感じるようになってきていた。


(龍宗様……)

 近づいて来る龍宗を待ちわびて、いつものように目を閉じようとした時だった。

「璃鈴」

「はい」

「俺は、一つだけお前に嘘をついた」

「え?」

 ぱちりと目を開けると、龍宗が目を細めて璃鈴を見ている。

「俺は……」

「陛下!」


 突然、先ぶれもなく扉がひらかれ大きな声がした。二人が振り向くと、そこにいたのは尚宮の伝雲だった。

「いけません、陛下! そのお茶を飲んでは!」

 あまりの剣幕に、何が起きたのかわからないまま龍宗と璃鈴は、ぽかんとして彼女を見ていた。

「そのお茶には、毒が入っております!」

 伝雲の指さした先には、先ほど璃鈴が入れた茶があった。

「その女は、皇后という立場を利用して龍宗様に害をなそうとしているのです」

 伝雲の後ろから、周尚書が現れる。


「周尚書、何を言っている」

 さすがに龍宗が眉をひそめるが、周は全く気にせず笑う。

「危なかったですな。その女は、功儀国の間者です。雨の巫女とは名ばかり。神族の里からこちらへ来る途中、本物の巫女とすり替わったのです」

「だが、璃鈴は雨を降らせることができたではないか。第一、神族の里へは飛燕が直接迎えに行って連れてきた。すり替わることなど……」

「雨など、待っていれば降るのは当然の事。そして、その来飛燕殿こそ功儀国と通じていたのですよ」

「な……!」