「ミケ太よ……。お前はホンマにつれないヤツやな……。ま、そんなつれないところも俺は愛しているからなっ!」
「ナカさん……。ミケ太は男の子でしてよ?」
 ぐっと拳を握りながら宣言するナカさんにおユキちゃんは呆れた声を漏らす。それからナカさんへ、
「そんなナカさんは、どうやってこのお店を知って、サクさんのご友人になられたのですの?」
「俺か? 俺の場合は、ミケ太に命を救われたようなもんや……」
 ナカさんはうっとりとミケ太を眺めながら呟く。そんな熱い視線の先で、ミケ太は自身の背中の毛繕いを入念に行っている。
「何の話で盛り上がっているの?」
「サクさん!」
 そんな中、ミケ太が先程出てきた奥の部屋から、前掛けをつけた背の高い男性が現れる。ニコニコと笑っているこの人物が、この『喫茶 ねこまた』の店主である。名を作太郎(さくたろう)と言うのだが、常連客たちやおユキちゃんたちは『サクさん』と呼んでいる。
 作太郎は左手に()れたての珈琲を持ってやって来ると、
「おかわりは、いかがですか?」
「戴きます」
「貰うわ」
 クリスティーンとナカさんに声をかけると、二人へおかわりの珈琲を注いでいく。
「相変わらず、ココのコーヒーは良い香りデスネ」
「ありがとう」
 クリスティーンににっこりと微笑み返すと、作太郎はナカさんの前に立つ。するとナカさんが、
「俺とお前のなれそめ、話しても構わへんよな?」
「なれそめって……」
 作太郎は苦笑いを浮かべながら、構わないよ、と答える。そうしてナカさんの珈琲カップへとおかわりの珈琲を注ぐ。
 ナカさんは珈琲の香りを楽しむように目を閉じると、そのまま神妙な面持ちで『喫茶 ねこまた』と自分との関係を語り出すのだった。