「あんなにお優しい方、他にはおりませんわ!」
 熱弁するおユキちゃんにクリスティーンは苦笑いを浮かべた。そうして、
「私がどうやってこのお店のことを知ったのか、と言うお話デスネ?」
 おユキちゃんに確認を取ると、おユキちゃんはぶんぶんと首を縦に振った。クリスティーンは少し視線を彷徨わせ、何かを思い出すようにしてから、
「あれは去年、私がまだ日本に来たばかりの頃デスネ」
 そう言って『喫茶 ねこまた』との関係を話してくれる。
 その頃のクリスティーンはまだまだ日本語が不自由で、家に閉じこもってばかりいた。そんな折、家にいてばかりのクリスティーンを心配した旦那のマークがこの『喫茶 ねこまた』へと連れてきてくれたのだった。
「ココのマスターは、英語が出来ると、マークが言うので……」
 そうして久方ぶりに外出しやってきたこの喫茶店の雰囲気と、珈琲の味を、クリスティーンはたいそう気に入った。そのため度々この店を訪れるようになり、そこで日本語の勉強をしていく。店主もまた、クリスティーンの日本語の勉強に付き添い、その結果、今やクリスティーンは日本語で日本人と交流を持てるまでになったのだった。
「こうしておユキちゃんとお話しできるのも、全てこのカフェとマスターのお陰様デス」
 そう言うと、クリスティーンは両手をすりあわせて宙を拝んでいる。どうやら、日本式の感謝の気持ちを体現しているようだ。そんなクリスティーンの話におユキちゃんは感動したようで、
「やっぱり、サクさんは素敵な方ですわ!」
 そう言って両手を組んでいる。
 おユキちゃんの口から出た『サクさん』なる人物が、どうやらこの店の店主のことのようだ。
 そんな話をしていると、奥の部屋から一匹の三毛猫がやってきて、ぴょんと机の上に飛び乗った。
「あ、ミケ太! こんにちは!」
 おユキちゃんの挨拶に『ミケ太』と呼ばれた三毛猫は、尻尾を振ることで答えた。その後顔を洗い始める。
「相変わらず、自由なヤツやなぁ、お前は」
 ナカさんはそう言うと、ミケ太の肩へと手を伸ばす。ミケ太はその手を一瞬だけ見やるが、ナカさんに肩から背中にかけてを撫でなれながら顔を洗うことにしたようだ。
「かぁーっ! このミケ太のふてぶてしさ! 最高やなっ!」
 興奮したナカさんはミケ太の背中を激しく撫で回す。ミケ太は乱れた自分の背中を見やると、今度はナカさんの手が届かない位置へと移動をし、背中の毛繕いを行っていく。
 ナカさんは手の届かなくなったミケ太を眺めながら、