応接間に通された日本人三人はクリスティーンが煎れてくれた、本場イギリスからの紅茶を堪能していた。
「サクさん、この紅茶、ねこまたでも出したらえぇやん?」
 ナカさんはその味が気に入ったのか、そんなことを言い出す。そんなナカさんの腕を小突きながらおユキちゃんは、
「ナカさん、今はミケ太の話でしてよ?」
 小声で軽くいさめる。
「ミケ太……」
 その声が聞こえたのか、マークが小さく呟いている。
「そう、ミケ太ですわ! ちょっと前から行方不明ですの! 何かご存知ですわよね?」
 おユキちゃんの言葉に、マークは突然ガバリッ! と頭を下げる。
「すまなかった!」
「?」
 疑問符を浮かべる作太郎へ、マークがことの経緯を説明し始めた。
 今月は愛しい妻の誕生日である。かなり日本に慣れてきてくれた妻に、何か、日本のものをプレゼントしたかったと言う。
 何がいいだろうか。
 もっと妻のためになるようなものがいいだろうな。
 そんなことを考えながら日々を過ごしていた時、妻から『ねこまた』なる猫の妖怪の話を聞いた。
「いつも話し相手になってくれるのは、素敵よね」
 そんなことを言う妻に、誕生日プレゼントはこれだ、とマークは思ったのだという。
 それから『喫茶 ねこまた』の周りを見張り、ミケ太が出てくるのを待っていた。そうしてこの間、出てきたミケ太を、にぼしを餌に釣って捕まえたと言うのだ。
「妻のためだったのだ……。まさかこんなにも愛されている妖怪だとは思わなかった」
 マークは三人の日本人を見つめながら言った。そんなマークの告白を聞かされたクリスティーンも驚いて目を見張っている。
「マーク……」
「あぁ、クリスティーン。私を嫌いにならないでくれ」
「嫌いになんてならないわ。全て私のためだったのですもの」
 二人はそんなことを英語で話している。
「で、その肝心のミケ太はどこなんや?」
 マークの説明を受けたナカさんが当然の疑問を口にする。それを受けたマークは、
「実は……、ミケ太は私の船にいるのだ……」
「船ぇっ?」
 驚いたのは三人の日本人だった。道理でいくら地上を探していても、ミケ太の痕跡が見つからない訳である。
「ミケ太の所へ、案内してくださいますよね?」
 おユキちゃんの言葉に、マークは頷いた。そして三人の日本人と愛する妻であるクリスティーンを引き連れて、神戸港に向かうのだった。