それから数時間後。
 『喫茶 ねこまた』には憮然とした表情でにぼしをかじっているナカさんと、それを冷ややかに見つめるおユキちゃん、そしてにぼしを興味深そうに眺めているクリスティーンの姿があった。
「どうやら、収穫はなかったようだね」
 作太郎はミケ太の捜索から戻った三人に珈琲を出しながら言う。ナカさんは奥歯でにぼしをかじると、
「これだけ探して、手がかり一つ見つからないとは……。神隠しやな!」
「神隠しって……。ミケ太は猫又の妖怪でしてよ?」
「あんな愛らしい妖怪やったら、神様も欲しがるやろっ!」
 ナカさんはバリボリとにぼしにかじりつきながら言う。作太郎はそんなナカさんに苦笑を返した。
 そう。神戸中とは行かなくても、この数時間クリスティーンは外国人居住区を、おユキちゃんとナカさんは『喫茶 ねこまた』を中心に東西に分かれてミケ太を探していたのだが、
「影も形もないとは……」
 ナカさんの言うとおりミケ太はおろか、ミケ太らしき猫を見たという人物も見当たらなかったのだ。これではナカさんでなくとも、神隠しと言いたくなると言うものだ。
「クリスティーンの方はどうやった? ミケ太、見つかったか?」
「いいえ~……」
 ナカさんの問いかけにクリスティーンは自分のにぼしを見つめながら答える。
「クリスティーン? さっきからどうしましたの?」
「これ、人間が食べても平気なんデスカ?」
「……」
 クリスティーンがナカさんを見ながら言う素朴な疑問に、少しの間が出来る。
(異人さんはみんな、こんなに自由なんやろか……)
 ナカさんはこっそりそんなことを思うのだった。