誕生日会をすることが決まった翌日。
「ミケ太ー! 来たでー!」
 再びナカさんの元気な声に店内が包まれる。しかしその声に答えたのは、
「あ、ナカさん! 大変! 大変ですの!」
 切羽詰まったおユキちゃんの声だった。ナカさんは今日も駆けつけてこないミケ太を不思議に思いつつも、いつもの席に着く。そんなナカさんへ、
「いつもの珈琲で大丈夫かい?」
「頼むわ」
 作太郎はナカさんの注文を受けるとにっこり笑って奥へと消えていった。
「それで? 何がそんなに大変なん?」
「ミケ太が、行方不明ですの!」
「な、なんやてーっ! って、どうせまたいつもの散歩やろ? 騙されへんで」
 ナカさんはおユキちゃんが差し出した冷やを一口飲みながら冷静に返す。そんなナカさんへ珈琲を持った作太郎が困ったように笑いながら、
「それが、嘘でも何でもなくてね」
 そう言いながらナカさんへ珈琲を差し出す。それから昨日散歩に行ったきり、ミケ太が帰っていないことを告げた。
「ミケ太が帰ってないって、大事《おおごと》やないか!」
 事情を聞いたナカさんが慌てるように言うのに、作太郎はそのうち帰ってくるよ、とのんきに構えている。
「迷子になってたらどないすんねん!」
「迷子って……。ミケ太は猫だから大丈夫だよ」
「でも、普通の猫ではナイデス……」
 今まで黙って珈琲を飲んでことの行く末を見守っていたクリスティーンのこの言葉が引き金となった。ナカさんはワナワナと小さく震えたかと思うと、すくっと立ち上がる。
「ど、どうしましたの?」
「探すで! ミケ太! ほら、二人にもにぼし!」
「え? えっ?」
 ナカさんはおユキちゃんとクリスティーンににぼしを投げ渡すと店を出ようとする。
「ナカさん、ミケ太の行く場所のあてでもあるの?」
「ないっ! ないけど、神戸中探したら見つかるやろ! サクさんは店におってな! ミケ太が戻ってくるかもしれへんし!」
 ナカさんは作太郎にそう言うと、今度こそ店を出て行ってしまう。残された三人は顔を見合わせると、
「どうします?」
「ミケ太を探しマショウ!」
「神戸中を?」
「なんとか、なりマス!」
 意外と乗り気なクリスティーンにおユキちゃんははぁ~、と嘆息する。
「まだ少し暑いですし、倒れられてたら大変ですものね。探しに行きましょうか……」
 そして椅子から立ち上がると作太郎の方を見て、
「サクさん、私たちもミケ太を探しに行っても?」
「うん、構わないよ」
 おユキちゃんは一応作太郎からの許可を貰うと、クリスティーンと共に店を出て行くのだった。