母ひとり子ひとりの期間が長かったため、なるべくお互いに面倒をかけないよう、気を遣ったり遠慮するくせができている。きっと母は、少しくらい体調が悪くても私に連絡はしてこない。私だって、去年熱中症と風邪で倒れたときも、母に報告したのは治ってからだった。

「こういうの、ほんとはよくないんだろうな……」

 母が体調不良を無視して仕事を続け、病院に行ったときには手遅れ、なんて想像をするとぞっとする。これから先、母も歳をとっていくし、そんなことがないとも限らない。

 離れていると、気づかなきゃいけないことにも、気づいてあげられない。せめて母が安心してなんでも相談できるくらい、私がしっかりできればいいんだけど。

「お母さんに会ったら、そういうこともちゃんと、話してみよう」

 こんなとき、ひとりっ子じゃなくてきょうだいがいたらな、と思う。ミャオちゃんみたいな家族思いの妹とか、響さんみたいなしっかり者のお姉さんとか。

 でもそれより、自分に家族がいたら、こういうときに心強いんだろうな、と四葉さんと柚人さんの結婚式を思い出す。

――おむすびも、したいの? 結婚。

 あの日のミャオちゃんの言葉が、唐突に頭に響く。

「そりゃ、できるものなら、したいけど……」

 カーッと赤くなった顔を、クッションにうずめる。

 一心さんと、ずっと一緒にいられたら、幸せだと思う。でも、告白もしていないのにその先のことまで想像するのって、いけないことのような気がして……。

 芸能人と結婚する妄想なら許されるのに、身近な、本当に好きな人だとできないのはどうしてだろう。よこしまな思いが自分からもれそうで、怖いのかな。それとも、自分には恐れ多いっていう気持ちになるからなのかな。

「それより、早く一心さんに連絡しないと」

 休みのお願いをするために、私はまだ食堂で仕込みをしているであろう一心さんに電話をかけた。