「桜まつりの出店の話ね。知ってるわよ、あたしだって組合に参加していたんだから」

 報告をしたくて響さんのバーに寄ると、『なによ今さら』といった口調でグラスをカウンターに置かれた。今日のカクテルはコスモポリタン。クランベリーとライムのジュースを使ったカクテルらしい。キレイな桜色をしていて、今の時期にぴったり。

「あ、そういえば、そうですよね」

 商店街の店主の組合なのだから、当然響さんだってその場にいたのだ。

「まあ、どうせほかのことで頭がいっぱいになっていて、あたしが出席してることなんて頭から飛んでたんでしょうけど」
「そ、そんなことないです。本当にうっかり忘れてただけで」

 相変わらず鋭い響さんのツッコミに、冷や汗をかく。

「ふうん。まあ、そういうことにしておきましょ」

 ニヤリと笑うと、響さんはバーテンの制服に包まれた腰に手を当て、優雅にウエーブした肩までの髪をかき上げた。

 彫刻のような整った美貌を持つオネエの響さんは、一心さんを狙っている。私のことはライバル認定すらしておらず、『変な虫がつかないように一心ちゃんを見張っておいて』と言われたことも。しかしそのせいもあって、私は一心さんが好きなことを響さんに打ち明けられていない。そして、ミャオちゃんにも。

 黙っているのが心苦しく感じるときもあるけれど、これで響さんとの友情が壊れてしまったら、と考えると話すことができない。ちょっと毒舌だけど面倒見がよくて、いつも私の背中を押してくれる響さんのことを、私はいつの間にか親友のように感じていたから。

「でも、一心ちゃんが引き受けるんだったら、あたしも立候補すればよかったわ。商店街の抱えているスペースの都合上、二店舗は無理かもしれないけど」
「そしたら、食べ物と一緒にカクテルを売れますもんね」

 色っぽいため息と共に吐き出された響さんの言葉は、私の耳にもとてもいい提案に聞こえた。