「お子様ランチには旗がないとでしょ。私、これが楽しみだったんだから。……はい、できた」

 てっぺんに、白い花が飾られたパエリア。それは、旗のささったチキンライスと同じくらいしっくり調和して見えた。

「四葉……。あんたって子は」

 藤子さんはとうとう、我慢できずに泣き出し始める。

「えっ、お、おばあちゃん? どうしたの急に!」

今までの事情を知らない四葉さんには、わけがわからなかったのだろう。おろおろしながら、藤子さんにかける言葉を探している。

「急じゃないです。藤子さんは昨日からずっと、さびしいのを我慢していたんですから」

 一心さんは、藤子さんが隠していたことを躊躇なく暴露した。でも、きっとこれは隠す必要のないことだから。

「……そうだったの?」

 四葉さんは驚いて目を丸くする。

「……ふん」
「もー。私が結婚しても、おばあちゃんとの関係はなんにも変わらないじゃんか」

 四葉さんは瞳を潤ませて、藤子さんの肩を抱く。

「そうですよ。孫がもうひとり増える、くらいの気持ちでいてもらわないと」

 柔らかな声がして振り向くと、いつの間にか柚人さんが近くに来ていた。

「そうだよ、おばあちゃん。今度柚人と三人で、こころ食堂にお子様ランチ、食べに行こ」
「ああ、そうだね……」

 四葉さんにもたれかかったまま、目を閉じてうなずく藤子さんの口元は、穏やかな笑みの形に結ばれている。その四葉さんの手をそっと取る柚人さん。

 小さかった四葉さんとの思い出のオムライスに、また新しい思い出が加わったことを確信して、私と一心さんは顔を見合わせた。