「おばあちゃん! 一心さん、おむすびちゃん!」

 明るい呼び声に振り返ると、四葉さんがウエディングドレスの裾を持ち上げて、早足で駆け寄ってくるところだった。
 満面の笑みだが、裾を踏まないかハラハラする。

「ああ、四葉。花嫁衣装で走るのはやめなさい。転んだらどうするんだい」
「大丈夫、大丈夫。ガーデンウエディングだから、裾が長すぎないドレスを選んだんだ。それに、私と柚人に身長差があんまりないから、パンプスのヒールも低いし。あとこれ、走ってないよ? 早歩き」
「またそんなこと言って……」

 ぽんぽんと交わされるやりとり。四葉さんの口調の軽さも、話すスピードも私たちに接するときとは違って、家族の前での四葉さんのキャラクターを垣間見る。

 藤子さんは、「やれやれ。嫁にいったのに手のかかる孫だ」と言って乱れた髪の毛を直してあげている。さっきも『また』という言葉が飛び出したし、相当おてんばで活発な少女だったのかも。

「昨日話していた思い出って、四葉さんとのことだったんですね」

 こうして見比べてみると、年配の人にしては背が高い藤子さんと四葉さんは、顔の系統が同じだ。今日の藤子さんは眼鏡を外しているからわかりやすい。きりっとした、女優顔。四葉さんが歳をとったら、藤子さんみたいになるのか。

「え、なんのこと? 昨日って?」
「さあ。なんのことだろうね」

 不思議そうに首をかしげる四葉さんに対して、藤子さんはしれっとごまかしてこちらを見る。眉をひそめて目をぱちぱちさせているのは、『黙っていろ』と言いたいのかもしれない。

「四葉さん、こちらからお祝いの挨拶に行こうと思っていたのに来ていただいてすみません。お友達とのお話は、もう大丈夫ですか?」
「うん、もう終わったよ。まごころ食堂のみんなに挨拶したくて探していたら、おばあちゃんとふたりが話しているのが見えたから、急いで来ちゃった。なに話していたの?」

 一心さんが「まだ自己紹介をしたところです」と返し、四葉さんに向き合う。