私たちがしばらく見つめていたせいか、おばあさんもこちらに気づいた。『あ』という口の形を作ったあと、いたずらっぽく笑う。

「どうやら、バレてしまったみたいだね」

 楚々とした足取りでこちらに近づいてきたおばあさんには、まったく驚いた様子がない。

「昨日はご来店、ありがとうございました。四葉さんか柚人さんのご親族だったんですね」

 冷静に挨拶する一心さん。私も「こんにちは。昨日はありがとうございます」と頭を下げた。

「ああ。佐藤四葉の祖母の、佐藤藤子だよ」
「フジコさん、ですか?」
「そう。藤の花の藤子だよ。名前にふたつも藤が入っているから、つい紫色の服ばかり着てしまって。ああ、昨日もそうだったね」

 私たちの顔を眺めてにんまりする藤子さんは、むしろこの状況を楽しんでいるように見えた。

「俺たちが参列するのも、事前に知っていたんですね」
「もちろん。四葉から、こころ食堂のことを聞いていてね。孫の結婚式を前にして柄にもなくしんみりしてしまったから、家族で泊まっていたホテルを抜け出して食堂に行ったのさ」

 しんみり……。昨日、お子様ランチを食べながら涙ぐんでいたのは、昔を思い出したからだけではなく、孫の結婚式を控えて感傷的になっていたからだったのか。

「どうして、四葉さんのおばあさまだってこと、教えてくださらなかったんですか?」

 なるべく感情を出さないように聞いたけれど、少し恨みがましい声になってしまったかもしれない。

「しゃべってしまったら、今のあんたたちの顔が見られなかっただろう?」

 やっぱり、わざとだった。藤子さんのドッキリにまんまと引っかかってしまった私たちは、苦笑しながら顔を見合わせる。