「おむすび、よく気づいたな」
厨房に引っ込んだ私たちは、こっそりと会話を交わす。
「小さいころ、お子様ランチについてくる旗が大好きで、必ず家に持ち帰っていたんです。旗が欲しくて注文したときもあったくらいで。きっと、おばあさんとお孫さんも同じように、旗を持ち帰っていろんな話をしていたんじゃないかなって思って……」
もしそうだったら、旗のないお子様ランチを見てさびしい気持ちになるかもしれない。そう焦ってありあわせのもので作ったのだけど、喜んでもらえてよかった。
「おむすびがいなかったら、おばあさんをがっかりさせたままだったな。ありがとう」
「い、いえ……! 作るのが間に合って、よかったです」
真摯な謝礼にドキッとして首を振ると、一心さんが思案顔で首をかしげた。
「でもあのイラストの猫、なにかに似ているな」
「豆大福です。黒いペンしかなかったので国旗にはできなかったんですけど、白黒の猫なら描けると思って……」
「そうか、豆大福か」
珍しく、一心さんがくっくっと笑っている。まさか、絵が下手くそすぎたのだろうか。
「あの……?」
「すまん、なんでもない。ただ、お子様ランチについてくるのがあんな旗だったら、俺も意地を張らずに注文していただろうと思ってな」
「えっ、なんでですか?」
「なんでって、そりゃあ……」
不思議そうに見上げると、一心さんが急に表情を引き締め、咳払いをした。
「猫が、かわいいからだ」
「ああ! 確かに、国旗よりは猫のほうが子どもは喜びそうですよね」
「まあ、そういうことだ」
目線が泳いでいるのが気になったけれど、一心さんの言葉に不審な点はない。
まあ、いいか。こんなことを追求しても仕方ないし。
私は気を取り直し、おばあさんがお子様ランチを完食するのを見守りながら、明日の結婚式に思いを馳せた。
厨房に引っ込んだ私たちは、こっそりと会話を交わす。
「小さいころ、お子様ランチについてくる旗が大好きで、必ず家に持ち帰っていたんです。旗が欲しくて注文したときもあったくらいで。きっと、おばあさんとお孫さんも同じように、旗を持ち帰っていろんな話をしていたんじゃないかなって思って……」
もしそうだったら、旗のないお子様ランチを見てさびしい気持ちになるかもしれない。そう焦ってありあわせのもので作ったのだけど、喜んでもらえてよかった。
「おむすびがいなかったら、おばあさんをがっかりさせたままだったな。ありがとう」
「い、いえ……! 作るのが間に合って、よかったです」
真摯な謝礼にドキッとして首を振ると、一心さんが思案顔で首をかしげた。
「でもあのイラストの猫、なにかに似ているな」
「豆大福です。黒いペンしかなかったので国旗にはできなかったんですけど、白黒の猫なら描けると思って……」
「そうか、豆大福か」
珍しく、一心さんがくっくっと笑っている。まさか、絵が下手くそすぎたのだろうか。
「あの……?」
「すまん、なんでもない。ただ、お子様ランチについてくるのがあんな旗だったら、俺も意地を張らずに注文していただろうと思ってな」
「えっ、なんでですか?」
「なんでって、そりゃあ……」
不思議そうに見上げると、一心さんが急に表情を引き締め、咳払いをした。
「猫が、かわいいからだ」
「ああ! 確かに、国旗よりは猫のほうが子どもは喜びそうですよね」
「まあ、そういうことだ」
目線が泳いでいるのが気になったけれど、一心さんの言葉に不審な点はない。
まあ、いいか。こんなことを追求しても仕方ないし。
私は気を取り直し、おばあさんがお子様ランチを完食するのを見守りながら、明日の結婚式に思いを馳せた。