一心さんは子どものころ、お子様ランチを食べた経験がない。もし〝あれ〟が必要なことに、一心さんが気づいていなかったら――。

「お待たせしました」

 レジカウンターにいる間に、料理をすませた一心さんがお子様ランチをカウンター席に運んでいく。

 主食はチキンライスとナポリタン、おかずはエビフライとミニハンバーグ、という豪華なオムライスだ。

「まあ……」

 まるでデパートのようにワクワクするそのお子様ランチを見て、おばあさんは感嘆の声をもらしたが、チキンライスを見て一瞬、表情を曇らせた。

「どうかしましたか?」

 それに気づかない一心さんではない。即座に声をかけたが、おばあさんは笑顔を作って首を横に振った。

「ああいや、なんでもないよ。作ってくれてありがとうね」

腑に落ちない顔をしている一心さんと、話を切り上げてしまったおばあさんの間に、進み出る。

「あの……。もしよかったら、これを」

 私は〝それ〟を、おばあさんに差し出す。一心さんとおばあさんは、そろって目を見開いた。

「それは……」
「旗です。お子様ランチには旗がささっていないと、って思って作ったんですが……」

 厚紙と楊子で作って、猫のイラストを描いたそれを、チキンライスにさす。

「ああ……、これだよ。これで、思い出のお子様ランチになった。ありがとう」

 おばあさんの声は震えて、眼鏡の奥の瞳は涙ぐんでいた。

「お役にたててよかったです。どうぞ召し上がってください」
「ああ、いただくよ」

 おばあさんはスプーンを取り、幸せそうな顔でお子様ランチを食べている。