「公言しているわけではありませんが……。ご要望があれば」
「知り合いにそう聞いて、来てみたんだよ。ここでだったら、〝あれ〟を頼んでも恥ずかしくないかと思ってね」

 〝あれ〟と言葉を発するときに、ひそひそ声になる。思わず、私と一心さんはカウンターを挟んで顔を見合わせた。

 頼むのが恥ずかしいものって、なんだろう。男性だったら、パフェやパンケーキを頼みづらいと聞いたことはあるけれど、相手は年配の女性だ。

「〝あれ〟とは?」

 一心さんが、声のトーンを落としてたずねると、おばあさんは私と一心さんを手招きした。内緒話をするように手を口元に持ってきたので、耳を寄せる。

「それはね……、お子様ランチさ」

いたずらっぽい声で、おばあさんがささやいた。まるで、魔法の言葉を口にするみたいに。

「お子様ランチ……ですか」

 私もつられてひそひそ声になる。確かに、お子様ランチは大人は頼みづらい。そもそも、ファミレスなどでは年齢制限を設けていたりする。

 中学生くらいのころは、『まだお子様ランチが食べたいのに』と年下の子をうらやましく思ったりしたけれど、大人になってからはそんなこともなくなったので、お年を召してもお子様ランチが食べたくなるんだとびっくりした。なにか、特別な思い入れがあったりするのだろうか。

「お子様ランチといっても、人それぞれイメージするものが違うと思いますが……、どんなものを?」

 確かに、そうだ。私が想像するのはチキンライスにハンバーグ、エビフライといった洋食屋さんっぽいものだけど、人によってはチキンライスがオムライスだったりするかもしれない。