結婚式参列用のドレスを買ったり、四葉さんの試作品の味見をしたりしているうちに、結婚式前日になった。今日は雨だけど、明日には晴れるという予報だ。雨だったらガーデンウエディングが屋内になる段取りらしく、四葉さんもホッとした様子だった。

 そしてこの日は、ひとりのおばあさんが、杖をつきながら傘を差してこころ食堂に訪れた。

 落ち着いた紫色のロングワンピースに紫陽花柄のスカーフを巻いて、紺色の杖と傘を携えたおばあさんは、服装の色彩も紫陽花カラーで、かくしゃくとしたオシャレさんに見えた。

「いらっしゃいませ。傘、お預かりしますね」
「ああ、どうもね」

 おばあさんの傘を預かって、入り口脇の傘立てにかける。よく見たら、眼鏡も薄い紫色のプラスチックフレームだ。キレイな白髪のパーマヘアに合っている。

「お席にご案内します。テーブル席より、座敷のほうがよろしいですか?」

 夜営業が始まったばかりですいていたので、杖をついているおばあさんを気遣ってたずねる。うちのおばあちゃんも腰が悪くて、テーブルより畳のほうが好きだったから。

「いや、カウンターで頼むよ。ひとりだし、膝が悪いと椅子のほうが楽でね」
「かしこまりました。それでは、こちらに」

 自分も将来、こんな素敵な老婦人になれたらいいなあ、と考えながらカウンター席に案内する。そもそもこういう方は、若いころからオシャレな美人さんだったんだろうけれど。平凡女子が歳を重ねただけで素敵になれる魔法はないのだから。

「こちらがお品書きです」

 お茶とおしぼりを運び、メニューを示すけれど、おばあさんは手を伸ばさずに私をちらりと見た。