「おむすびちゃん、ミャオちゃん! ごめんね、チョコを届けに来てくれたのにケーキを注文させちゃって」

 パティシエ服姿の四葉さんが、お客さまを見送ったあと私たちのテーブルに駆け寄ってきた。

 四葉さんは、身長が高くスタイルバツグン、ショートカットが似合うかっこいいお姉さんだ。男装が似合いそうなくらい見た目も中身もイケメンなのに、柚人さんの前では乙女になるところがかわいい。

 最初は私のことを『結ちゃん』と呼んでいた四葉さんだが、最近あだ名で呼ばれるようになった。

「いえ。ちょうどおやつの時間だから、四葉さんのお店に行ったらケーキを食べようって、ミャオちゃんと話していたんですよ」

 ミャオちゃんは、花言葉シリーズの新商品である、紫陽花ケーキに夢中の様子。ブルーベリー味のレアチーズケーキの上に、砂糖菓子で作られた紫陽花がのっている。

 私が食べているのはメロンショートだ。シンプルだけども、甘さ控えめのクリームとスポンジがメロンの甘さを引き立てていて、苺ショートよりもさっぱりしたおいしさだ。上にもスポンジの間にも薄く切られたメロンがたっぷりだし、メロン好きにはたまらない。

「メロンショート、おいしいですね。定番の苺ショートよりも好きかもしれません」
「ありがとう。メロンにはこだわったからね~。青臭くなくて甘いメロンを選ぶのに、いろんな銘柄を試したよ。おいしくても、柔らかすぎたり水っぽいとケーキに合わなかったりして……」

 ただおいしいものを選べばいいわけじゃないのが大変そうだ。特に果物は、ケーキのおいしさを左右するものだし。

「こだわっているから、こんなにおいしいんですね」
「そうだね。でもそれは、一心さんも同じでしょ」

 四葉さんが腰に手を当ててにこっと笑う。同じ料理人同士、ふたりには共感できる部分があるみたいだ。