レジの前で「あたしが誘ったんだから、あたしが出すわよ」「いえ俺が」ともめていた響さんたちは、仲良く割り勘することに決めたらしい。

 白州さんと肩を並べて店を出ていく響さんはすごくうれしそうで、はしゃいでいる様子がかわいくて。ああ、本当によかったなあ……と胸をじんわりさせながらふたりを外まで見送った。

 カウンターに戻ると、一心さんが焼きそばの器を片付けながら難しい顔をしていた。

「……なんだか、後半の展開にはついていけなかったんだが、なにが起こったんだ?」
「一心さんの焼きそばが、響さんの勇気に火をつけたってことです」

 くすりと笑って返すと、

「よくわからないが、響が幸せなら、よかった」

 と、私の頭に手をのせた。

「あ」

 と、小さくつぶやく一心さん。私は顔を赤くして固まったまま、その声を聞こえないふりする。

 今夜が幸せな夜すぎたから。だから一心さんも気がゆるんで、うっかり触れてしまったんだ。ただ、それだけだ。

 そそくさと立ち去り、厨房にこもった一心さんを覗き見ると、眉も唇も怒ったようにきつく結ばれているのに、耳が真っ赤になっていた。

 響さんは、好きな人に対して勇気を出した。私は、どうするの? これからもずっと、気持ちを隠したまま、一心さんのそばにいるの――?

 今すごく、響さんとミャオちゃんに、この気持ちを聞いてほしいと思った。