心配しながら、だれもいなくなったテーブル席にふきんをかけていると、

「あの……。もうひとつ、びっくりするようなこと、打ち明けてもいいかしら」

 と、しなを作った響さんが言い出す。

「はい、もちろん。でも、きっと驚かないと思いますよ。この話のあとじゃ」
「実はあたし、白州さんのことが好きなの。その、恋愛的な意味で」
「え」

 今度は白州さんひとりぶんの驚きの声があがり、私と一心さんは言葉を失うのみだった。

「驚いた?」

 お茶目な声でたずねる響さん。それは、白州さんだけでなく私たちにも聞いてほしい。

「はい、すごく……。酒井さんはその、すごく美形じゃないですか。そんな人に自分が好かれるなんて思っていなかったので……」
「気持ち悪いとか、嫌だとか、思う?」
「そういうことは、全然。酒井さんのことは、性別関係なく人間的に好きですし」

 目の前で、知り合いの恋が発展していくさまを、私と一心さんは呆然と見つめている。さっきまでカミングアウトもためらっていた響さんなのに、肉食モードに切り替わったとたん、展開が早い。口を出したら失敗しそうで、なにも言えない。

「ただ俺は、男性を好きになったことはないんですよ。だから、酒井さんのことを恋愛対象として見られるかどうかも、まだわからなくて」
「それは、そうよね。仕方ないわ」

 さびしげな微笑みを浮かべて、響さんが頭を軽く振る。

 恋愛に性別は関係ない、と思っている人でも、実際その人と恋愛できるかどうかは、また別なのだ。

 響さんからしたら残念だろうけど、仕方のないことだよね……。と思っていると、白州さんがまだ続きがあるようにひと呼吸おいた。