「ああ……。ここから少し行ったところに、桜がたくさん生えている公園があるだろう」
「はい。ちょっと小高い、丘みたいになっているところですよね」

 去年お花見した運動公園とは違う、もっと桜が密集している公園だ。いろんな種類の桜や山桜も植わっていて、歩くだけでもちょっとしたピクニック気分を味わえる。

「そこで毎年、桜まつりをやっているんだが……。おむすびは、行ったことはあるか?」
「はい、大学のときに何度か。たくさん屋台が出ていたり、のど自慢とか桜むすめのコンテストがあったりして盛り上がっていました。一心さんは、行ったことあるんですか?」
「子どものころに、少しな」

 大学からこの町に出てきた私とは違い、一心さんは地元も近くだ。なのに子どものころにしか行ったことがないというのは、一心さんがにぎやかな場所や人混みを好まないからだろう。

「その、桜まつりが話し合いに関係していたんですか?」
「ああ。まごころ通りの商店街も、桜まつりに毎年屋台を出店しているんだ。毎年同じ飲食店が立候補してくれて、今年も準備を始めてくれていたんだが……」

 そこでひと息ついて、一心さんは表情を曇らせる。

「店主が食中毒を起こしてな。家での食事が原因だったらしいが、念のため二週間ほど営業を休むことになったそうだ」

 食中毒。それは飲食店にとっては大事だ。お店で出したわけじゃないからまだよかった、とホッとしたのだが、この話で重要なのはたぶんそこではなくて――。

「二週間……ってことは」

 桜まつりは四月の初めの土日だから、ギリギリ間に合わない。

「桜まつりにも出店できなくなったということだ。今回緊急で組合が開かれたのは、代理で出店してくれる店舗を決めるためだったんだ」
「そうだったんですか……」
「それで、だな」

 一心さんが声にぐっと力を入れた。