「確かに、父はそういうことにはうるさかったですけど……。じゃあ、隠し味を入れたわけじゃなくて、うっかりこぼしたものが結果的に隠し味になっただけってことですか?」
「おそらく、そうだと思います」
「それならそうと、言ってくれればいいのに……。なんで隠したりなんか」

 その理由は、わかる気がする。大人の男はかっこつけたくなる生き物なんだって、最近わかってきた。

「もしかしたら、白州さんに自分が失敗したところを見せたくなかったのかもしれません。家族になったばかりだし、かっこいい、頼りになるお父さんって思われたかったのかも」
「僕も、その説に一票ですね」

 響さんも、私に同意してくれた。

「……会ったばかりのときは、父が欠点のない、完璧な大人に見えて緊張していたんです。でも実は、父も緊張したり、かっこつけたりしていたんですね。もっと早く、知りたかった……」

 その言い方に、胸がドキッと嫌な音をたてる。存命なつもりで話していたけれど、もっと早く知りたかったということは、まさか……。

「あの、白州さんのお父さんは、今は……?」

体温が下がるのを感じつつ、おそるおそるたずねる。すると白州さんは、一瞬考えたあと、「ああ、違うんです」とあわてて手を振った。

「すみません、思わせぶりな言い方をして。教師は定年退職して、元気で母と暮らしていますよ。そうではなくて、最初に反抗的な態度をとってしまったことを、今でも後悔しているんです。しかも、父の年齢を反対の理由にするなんて……」

 視線を焼きそばに落として、箸を置く。