ほかのお客さまの会計をしている間に、隠し味を入れた焼きそばもできあがった。
「どうぞ、さっきのものと食べ比べてみてください」
白州さんが、期待と不安の混じった表情で、ゆっくりと焼きそばを口に運ぶ。そして――。
「こ、これは……!」
目を丸くして、一心さんを見上げた。
「間違いないです。この弾力と、この香ばしさ……。義父があのとき作った焼きそばと同じです。隠し味は、なんだったんですか?」
十年以上も昔、それもひとくちだけだったのに『間違いない』と言い切れるのは、白州さんがその日の味を何度も何度も反芻してきたからだろう。
前のめりになる白州さんに、一心さんはゆっくり告げる。
「ビールです」
「えっ、ビール?」
「はい。バーベキューで、水の代わりにビールを入れることもあるんですよ。ビールは水よりもすぐ蒸発するので、麺に弾力が残るんです」
大学時代、サークルでバーベキューをしたとき、先輩たちが焼きそばにビールを入れていたことがあった。ふざけているだけだと思っていたけれど、あれはちゃんと理由があったのか。
「お父さまがお酒を飲んでいたと聞いて、確信しました。トイレから戻ったときあわてていたのは、ビールをホットプレートの上にこぼしてしまったからでは? ひとくちで取り上げたのも、未成年にビールの入っているものを食べさせたくなかったんだと思います」
白州さんは驚いたままの顔で、はーっと息を吐いた。
「どうぞ、さっきのものと食べ比べてみてください」
白州さんが、期待と不安の混じった表情で、ゆっくりと焼きそばを口に運ぶ。そして――。
「こ、これは……!」
目を丸くして、一心さんを見上げた。
「間違いないです。この弾力と、この香ばしさ……。義父があのとき作った焼きそばと同じです。隠し味は、なんだったんですか?」
十年以上も昔、それもひとくちだけだったのに『間違いない』と言い切れるのは、白州さんがその日の味を何度も何度も反芻してきたからだろう。
前のめりになる白州さんに、一心さんはゆっくり告げる。
「ビールです」
「えっ、ビール?」
「はい。バーベキューで、水の代わりにビールを入れることもあるんですよ。ビールは水よりもすぐ蒸発するので、麺に弾力が残るんです」
大学時代、サークルでバーベキューをしたとき、先輩たちが焼きそばにビールを入れていたことがあった。ふざけているだけだと思っていたけれど、あれはちゃんと理由があったのか。
「お父さまがお酒を飲んでいたと聞いて、確信しました。トイレから戻ったときあわてていたのは、ビールをホットプレートの上にこぼしてしまったからでは? ひとくちで取り上げたのも、未成年にビールの入っているものを食べさせたくなかったんだと思います」
白州さんは驚いたままの顔で、はーっと息を吐いた。