それを指摘したら、義父は『飽きるだろうと思って隠し味を入れたんだ。でも、これは大人向きだからお前にはまだ早い』と、白州さんの焼きそばを取り上げてしまった。まだひとくちしか食べていないのに。

「ずっと忘れていたんですけど、思い出したら気になってきました。なにを入れたか聞いても頑なに教えてくれなかったんですけど、最初のものよりも麺の食感がよくて香ばしかったんですよね」
「なるほど。食感がよくて香ばしい。そして大人向き、か……」

 話を聞いた一心さんは、あごに手を当てて考え込んでいる。

「その昼食のとき、テーブルに飲み物は出ていましたか?」
「え? ああ、どうだったかな……。夏だったから、僕は麦茶かなにかを飲んでいたと思うんですけど、父はどうだったかな。もしかしたら、なにかお酒を飲んでいたかもしれません。普段より饒舌だったような気がしますから」

 一心さんは納得したように「そうですか」とうなずいた。口角が少し上がっていて、私は一心さんが答えを出したことに気づく。

「白州さん、もしかしたらお父さまが隠し味に入れたもの、わかったかもしれません」
「えっ、本当ですか!?」
「はい。よかったら作ってみますが、もう一皿追加で食べられますか?」
「ええ、もちろん。まだまだ全然食べられます」
「あた……、僕も気になります。一心くん、そっちも二人前お願いできるかな」

 好奇心をくすぐられたせいで一瞬素に戻った響さんが、ハッとなって顔を引き締める。でも、響さんががんばるほど、わざとらしい口調になっている気が……。なんというか、昭和のトレンディドラマを見ているようなセリフ回しだ。

「かしこまりました」

 一心さんのポーカーフェイスからは、なにを考えているのか感じ取れない。このメンバーの中で私だけがハラハラしているような気がしてきた。