「じゃあ、キャベツと豚肉の焼きそばを作りましょうか。具は大きめ、味は濃いめで」
「お願いします」
「じゃあ、僕も同じものを」

 響さんが男らしい表情を作って、一心さんに目線を送る。

「焼きそば二人前ですね。かしこまりました」

 一心さんが厨房に戻り、じゅうじゅうと具を炒める音や、ソースの焦げる香ばしい匂いが漂ってきたあと、湯気のたつお皿をふたつ運んできた。

「お待たせしました」

 縮れた麺にソースがよく絡んだ焼きそば。キャベツも豚肉も野菜炒めのように大きめで、見ていると口の中につばがたまってくる。

「おいしそうですね」

 白州さんも、喉をごくりと鳴らす。

「いただきましょうか」

 響さんがうながすと、白州さんは丁寧に『いただきます』をして食べ始めた。ひとくちは大きいけれど、食べ方がキレイで好感が持てる。

「うん、おいしいです。キャベツもしゃきしゃきで食べごたえがあって」
「お父さまの思い出の味には、近づけましたか?」

 一心さんの問いかけに、白州さんがうなずく。

「はい。こんな感じだったと思います。あ、でも……」

 途中で、言葉を途切れさせ、なにかを思い出す白州さん。

「そういえば、その焼きそばを食べているとき、途中で味が変わったんですよね」

 ホットプレートで焼いた第一弾が食べ終わり、まだ食べ足りなかったので義父は次を焼こうと準備を始めた。白州さんはそのタイミングでトイレに行き、席を外したのだが、戻ってきたときになぜか義父があわてていた。

「いつも冷静で厳格な人があわてていたので、印象に残っています」

 ホットプレートの上には、作りかけの焼きそばがあって、特に変わった点はなかったらしいが……。

「でも、そのあと食べた焼きそばが、最初のものと味が変わっていたんです」