「俺の器の選び方と、白州さんの陶芸のポリシーが似ているんだと思います。今度ぜひ、うちでも器を購入させてください」
「ありがとうございます。こんな素敵なお店で使っていただけるなんて、うれしいです」

 白州さんは、すっかり打ち解けたようにリラックスしている。一心さんと似たタイプだから、通じ合うのも早かったのかも。心なしか一心さんも、気をゆるめているように見えた。

「うちの裏メニューのことは、響から聞きました?」
「はい。〝おまかせ〟で、お品書きにない料理も作ってくれるとか」

 一心さんがうなずく。

「なにか、お好みのものや食べたいものがあればお作りしますよ」
「うーん、そうですね……。せっかく酒井さんと飲めるんだから、お酒に合うものや、ふたりでつまめるものがいいですよね」
「僕のことは気にしないでください。たとえば、思い出に残っている料理なんかでもいいんですよ。一心くんは、その味まで再現してくれるんです」

 一心くん、と呼ばれた一心さんはぴくりと肩を震わせたが、さすがのポーカーフェイスだ。響さんの男言葉にも動じていない。

「思い出の料理……」

 その単語をつぶやいて、考え込む白州さん。

「なにか、ありますか?」
「あ、いえ。ちゃんとした食堂で頼むような料理ではないので」

 首を横に振るが、そう言うということは、心に浮かんでいる料理があるということだ。

「大丈夫です。言ってみてください」

 一心さんがうながすと、白州さんはためらいがちに口を開いた。

「……焼きそば、なんです」 

 遠くを見るような表情は、今まさに昔の思い出をかみしめているように思えた。