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 一週間後、響さんと白州さんがそろって夜に来店した。『器のお礼に、知り合いの店で食事をごちそうしたい』とメールで誘ったら、すぐにOKの返事が来たそうだ。『酒井さんは楽しい方なので、一緒に飲めるのが楽しみです』と書いてあったらしい。酒井というのは、響さんの名字だ。

 二回会っただけなのに仲良くなっていてすごい、と感心したのに、『お得意さまには邪険にできないだけかも』と響さんはマイナス思考だった。『まさかあたしに好かれているなんて思わないでしょ』と、ため息までついていた。

 今夜こころ食堂の引き戸を開けた響さんは笑顔だったが、いつものような微笑みではなく、眉がきりっとしている。

「いらっしゃいませ。お待ちしてました、響さん、白州さん」

 迎えた私にも、「おむすび。こちらが陶芸家の白州さん」と紹介してくれるが、なんだか様子がおかしい。
 そして白州さんに向き直った響さんは、いつもより一オクターブ低い声を出した。

「白州さん、ここが僕の知り合いの店です」

 いつもの響さんからは考えられないような口調に、私は吹き出しそうになった。

 ぼ、僕? そうか、オネエを隠すっていうのは、こういうことなんだ。わかっていたはずなのに、実際に聞くと違和感がすごい。歩き方や立ち姿も、いつもの女性らしい響さんではなく、わざと男っぽくしているのがわかる。

 響さんが固まっている私をぎろりとにらんだので、あわてて笑顔を作った。

「居心地のよさそうな、いい店ですね。はじめまして、白州です」

 白州さんは、少し長めの髪を後ろでひとつにまとめて、あご髭を生やした背の高い男性だった。今日は作務衣ではなく着物素材のシャツとジーンズをはいているけれど、それでも芸術家のオーラが出ている。

 硬派で精悍な見た目は一心さんに似ている。一心さんが歳を重ねて落ち着いて、さらに柔らかくなったらこんな感じになるのかもしれない。

 一心さんと白州さん。ふたりを比べたことで、響さんのタイプは把握できたかも。