「一応、連絡先は教えてもらったわよ。名刺だけど。あたしがたくさん購入したからお得意さま認定してくれたみたいで、アトリエにも、いつでも来ていいって言ってくれたし」
「いい感じじゃないですか! だったら、また連絡して会いに行ってみたらどうですか? 器を見るっていう大義名分もありますし」
「う~ん、そうなんだけど……。なんかこう、怖いっていうか」
「怖い……?」

 いつもの響さんだったら、すぐにまた会いに行きそうな感じなのに。告白するわけでもないのに『怖い』なんて、どうしてだろう。

 煮え切らない様子の響さんをいぶかしんでいるとき、一心さんはじっと響さんの表情をうかがっていた。そして――。

「もしかして響、相手にオネエなことを隠しているんじゃないのか?」

 ズバッと、躊躇ない声色で響さんの心の内に踏み込む。

「うっ」

 響さんは、二の句を継げず固まっている。やっぱり、一心さんの言った通りなんだ。

「えっ、どうしてですか? 初対面の人が相手でも、今までそんなことなかったのに」
「だってほら、好みのタイプだったし、オネエってバレて警戒されたくなかったんだもの。つい、男言葉を使って一般男性を装っちゃったのよ……」

 私はオネエではないから、響さんの複雑な気持ちは完全には理解できないだろう。でも、好きな人に引かれたくない、本当の自分を見せて嫌われたくない、という気持ちはよくわかる。それが自分の根幹に関わることだったら、隠したままなのはつらいはず。

「怖いっていうのは、オネエがバレて嫌われたら……ってことだったんですね」
「……そうよ。引くような人じゃないってわかってるけど、今までのように気さくに接してもらえなくなるかもしれないでしょ。それがとても、怖いのよ」
「でも本当は、白州さんにこそ本当の自分を理解してもらいたいんじゃないのか?」
「そりゃあ、好きな人が理解してくれたらどれだけ救われるかわからないわ。でも現実問題、そんな簡単にはいかないでしょ。三十年以上生きてきたけど、そんなことはよくわかってるもの」
「響さん……」