「まず、昨日おむすびに聞かれた、好きな人ができたんじゃっていう質問からよね」
「は、はい」

 ドキドキしながら響さんに向き合うと、遠くを見るようにしてうなずいた。

「その通りよ。この歳になってこんなこと言うの恥ずかしいけど、片思いしてる人がいるの。しかも、二回会っただけの人」

 二回会っただけ……。となるとやっぱり、恋の相手は一心さんではないのだ。もう、一心さんのことは好きではないのだろうか?

 本題からは逸れてしまうけれど、私にとってそれは重要な問題だった。響さんが一心さんを好きだったからこそ、自分の気持ちを周りに隠していたのだから。

「あの、口を挟んですみません。一心さんへの気持ちは、もういいんですか? 本人の前で聞くのもあれですけど……」
「ああ、それね。もとから、一心ちゃんがあたしに気がないことはわかってたもの。それに、おむすびが来てからは、なんだか家族愛みたいになっちゃって」

 それは、私もまごころ通りのみんなに感じていたことだから、わかる。
 一心さんも「そうだな」とうなずいた。

「俺も、響に対する気持ちは兄弟愛に近いのかもしれない。兄か姉……のように感じることはある」

 兄か姉、で迷っているのが一心さんらしい。基本的に女性らしい響さんだけど、一心さんにとっては年上の男性らしく頼りになる部分もあるのだろう。どちらの性別にもとらわれないところが、響さんの特別な部分だ。

「でしょう? まあそんなわけで、一心ちゃんのことは最初からそこまで本気じゃなかったってこと。好みなことは本当だけどね。わかった?」
「は、はい。じゃあ、今好きな人のことは、本気ってことですよね」
「……そうなのよね。やっかいなことに」

 見とれてしまうくらい色っぽい微笑を浮かべて、響さんが首を傾ける。恋をすると女性は美しくなるっていうけれど、今の響さんには女性でも男性でもドキドキしてしまう危うさがある。