端午の節句定食は、子どもの日に向けて用意した季節限定メニューだった。好評だったので、ゴールデンウィークが終わってからも五月いっぱいは注文できるようにしてある。

「中華おこわ、若竹煮、お吸い物、柏餅のセットなんですよ」
「若竹煮、いいわね。九州は筍の出荷量が多いから、おすそわけでもらうことが多くって。若竹煮も、子どものころしょっちゅう食べてたのよね~」

 まかないが出てくるまでの間は、茨城はレンコンとメロン農家が多いとか、お互いの地元の名産品話をしていた。

「待たせたな」
「あら、おいしそう。春らしくていいわね」

 カウンターテーブルの上に、黒いお盆が置かれる。中華おこわは、ちまき風に笹の葉で包んであって見た目も華やかだ。筍や銀杏の黄色、笹の葉や柏餅の緑色の色合いが五月らしい。お吸い物に浮かべてあるピンクの花形のお麩が、桜の忘れ物のようにかわいくてにんまりしてしまう。

「どうせなら、一心ちゃんもこっちで一緒に食べましょうよ。これからお昼なんでしょ?」

 私たちにお茶を淹れたあともカウンターの向こう側に立っている一心さんに、響さんが手招きする。

「俺はいつも、夜営業の仕込みをしながら軽くつまむから平気だ」
「でも、対面にいられるとなんだか緊張しちゃうわ。せめてこっちの席に座ってよ」
「俺はこっちのほうが落ち着くんだが……」

 一心さんはそうぼやきながらも、素直に私の隣の席に腰を下ろした。なぜか私を挟む席順になってしまったが、響さんが奥の席を選んだのだから仕方ない。

「じゃあ、いただきましょ」

 手を合わせて、一心さんがお茶をすする中ふたりで定食に箸を伸ばす。