「そういえば、おつまみの器の話題を振ったときから、響さんの様子がおかしくなったんですよね。お店の店員さんとか、一緒に器を買いにいった人が相手なんでしょうか」
「その可能性はありそうだな」

 どんな話を聞かされるのか気になりつつも、ぼうっと考えている暇はない。お店を開けるとランチのお客さまが次々とやって来て、気がつくとピークタイムを終えていた。

 最後のお客さまがお会計をして帰っていくのと同時に、響さんがやってくる。白いカットソーに薄手の黒ジャケット、黒デニムを着た響さんはいつも通りの落ち着いた装いだけど、首に巻いた藍染めのストールだけがいつもと違った。焼き物の器もそうだけど、こういった和風テイストの小物を身につけているのも見たことがなかったのに。

 もし、恋の相手の趣味に影響されているのだとしたら――、好みが変わって、乙女な表情を見せるほど、本気の恋だということだ。
 なんだか、話を聞く前にドキドキしてきた。

「おむすび、どうした。顔が赤いが」
「い、いえ。ちょっと暑くて。大丈夫です」

 まずいまずい。普通の態度でいないと、また響さんに怒られてしまう。今日はどんな恋バナを聞いても、冷静でいると決めたんだから。

「おむすび、来たわよ。ごめんね一心ちゃん、昼営業が終わるところなのに」

 長い脚をモデルのように組んで、いちばん奥のカウンター席に座る響さん。

「かまわない。注文はどうする? おむすびも、響と一緒にまかないを食べるんだろう?」
「あ、はい。じゃあ私は、端午の節句定食でお願いします」
「それ、おいしそうね。あたしも同じのでお願い」
「わかった。おむすびも、座って待ってろ」