「響が、ここで話すと言ったのか?」

 次の日の開店準備時間、私は一心さんに昨夜の出来事を伝えた。

「はい。恋わずらい、ってことにも否定はしませんでした」
「そうか。ここに来るということは、おむすびにも俺にも聞いてほしいということなんだろうな」

 一心さんは、響さんが恋をしていると聞いても驚いた様子はなかった。もしかしたら、予想がついていたのかも。

「そうだと思います。やっぱり、一心さんの言った通りでしたね。待っていればそのうち話してくれる、って。私はつい心配になって、頻繁に様子を見に行っちゃってたんですけど……。おとなしくしておけばよかったです」

 忠告を聞かなかったことを反省しつつ自嘲する笑みを浮かべたら、

「そんなことないだろ」

 一心さんは優しい顔で首を横に振った。

「え?」
「おむすびがそれだけ、響を気にかけているという気持ちが響にも伝わったから、話してくれる気になったんじゃないか? 放っておけとは言ったが、あれは無理をするなという意味で……。本当に放っておいたら、響はひとりで抱え込んでいたと思う」
「そう、でしょうか」
「ああ。少なくとも、おむすびがこころ食堂で働くようになる前は、響はあまり自分を出さないやつだったから。俺も、響の考えていることがわかるようになったのは、一年前からだ。やたらと距離感は近いのに、難しいやつだと思っていたな」
「そうだったんですか……」

 響さんも一心さんに対して、同じようなことを言っていた気がする。一年前から雰囲気がだんだん柔らかくなったって。

 ふたりの変化に自分が影響しているとか、そんな大それたことは考えられないけれど、なにかのきっかけになれたのだったらうれしい。年齢も性別もバラバラなのに家族のような絆で結ばれている、今のまごころ通りメンバーの関係性がとても尊いものだと感じるから。