いやでも、響さんは一心さんが好きなはず。でも、ここ最近のアンニュイな雰囲気は、一心さんに向けたものでは……ない。

「響さん。もしかして、好きな人ができたんですか……?」

 そうたずねると、響さんはぎょっとした顔で私を見た。

「な、な、いきなりなに言い出すのよ、あんた」

 そわそわした様子でほかのお客さまの様子をうかがうけれど、カウンター席には私たちしかいない。

「やっぱり、そうなんですね。最近様子がおかしかったのも、そのせいですか?」

 追撃の手をゆるめずに聞くと、響さんは目を丸くしたまま押し黙った。
 そして、すねたような顔で髪をかき上げて、そっぽを向きながらつぶやく。

「……ちょっと、お店では話せないわ。明日、こころ食堂の昼営業が終わりそうなころに、そっちに行くから」
「は、はい」

 響さんが否定しなかったことに、私は驚いていた。しかも、お店に来るってことは、一心さんにも聞かれていいってことで……。

 戸惑いと驚きと緊張で、ロボットのような動きでカクテルを飲んでいると。

「ちょっとおむすび! 明日もそんな態度ならなにも話さないからね! 普通にしてなさいよ、普通に!」

 響さんに怒られてしまった。照れ隠しだと思うけれど、響さんが強情になったら本当になにも打ち明けてくれないだろうから、ポーカーフェイスに努めなければ。