「さわやかねえ……。ミント系だと安直かしら」

 そう言いつつも、響さんは〝エメラルド・シティー〟を出してくれた。ミントとジンジャーエール、レモンジュースのカクテルだ。アルコールが弱めだし、さっぱりしているから選んでくれたのだと思う。
 響さんの気遣いに感謝しながらゆっくり味わっていると、

「これ、サービスよ。ここのところしょっちゅう来てくれてるから」

 と、響さんがおつまみの揚げパスタを出してくれた。

「わあ、ありがとうございます」

 パリパリに揚げたパスタにガーリックで風味をつけたおつまみは、私のお気に入りだ。揚げパスタはいつも通りおいしかったのだけれど、いつもと違うところがひとつ。

 盛り付けてある器がいつもと違ったのだ。焼き物、なのだろうか。茶色くて細長い筒の形で、表面がざらざらしている。でも、形に丸みがあるせいかしっくり手になじむ感じ。私は陶芸品の良し悪しはわからないけれど、素朴でいい器だな、と思った。

「この器、素敵ですね。こういう和風な感じのものを響さんが使うの、珍しいですね」
 普段は、白か黒のシンプルなお皿や器でおつまみが出てくる。お酒を注ぐグラスも、ガラス製のシンプルなものだ。響さんの趣味に合わせているのかなと思っていたのだが、趣味が変わったのだろうか。

「そ、そう……? ま、まあ、あたしも、素敵だと思ったから買ったんだけど」

 目を逸らして、しどろもどろに説明する響さんの頬は、ほんのり赤く染まっていた。 響さんが、乙女の顔になっている……!?
 まるで初々しい女学生のような反応に、私は衝撃を受けた。

「ひ、響さん。この器、どこで買ったんですか?」
「べ、別にどこだっていいでしょ」

 響さんの背後にある食器棚。今までガラス製のグラスしか飾っていなかったその場所に、陶芸品のビアグラスやおちょこが並んでいた。背の低い器は、おつまみ用だろうか。大人っぽいバーが、より渋くて落ち着く空間になった感じで私は好きだが、響さんの態度は明らかにおかしい。

 まさか、恋わずらい――?