忙しかったゴールデンウィークも終わり、新緑のまぶしさを感じられるようになった、五月。

 過ごしやすいこの季節をゆったりした気持ちで迎えていた私とは異なり、響さんはここのところ物憂げな様子だ。碧さんのときのような、なにかを隠したまま元気に振る舞っている、という感じではなく、ひたすらアンニュイなのだ。

『もしかして、五月病ですか?』『体調でも悪いんですか?』と気にかけても、ほうっと色っぽくため息をついたあとに、『なんでもないのよ。ただプライベートで……ちょっとね』と含みのある眼差しを向けるだけだ。

 一心さんには、『もったいぶっているということは、察してほしいということだ。そのうち響のほうから相談してくるだろうから放っておけ』と、もっともなことを言われた。

 ただ、その『相談したくなったとき』に私がその場にいるとは限らない。だから最近は定休日前だけでなく、体力に余裕のある日は仕事帰りに響さんのバーに寄ることにしている。

 ドアベルを鳴らしながらバーの扉を開けると、カウンターにいる響さんがそっけなく顔を向けた。

「あら、おむすび。今日も来たの」

 一杯だけ飲んで帰っていく最近の私を、響さんは『あんたも物好きねえ』とからかってくる。私の意図はわかっているはずなのに拒否しないのだから、一年前よりは信頼してもらえているのかな、とうれしい。

「今日はなにを飲むの? 明日も仕事なんだから、弱いのにしときなさいよ」
「おまかせします。五月っぽい、さわやかな感じのカクテルでお願いします」

 カウンター席に腰かけながら答えると、「あんたも注文の仕方がこなれてきたわねえ」と褒められた。