「拓真は、私のために桜餅を手に入れようとしてくれたんですね……。きっと、私がステージに立つのに緊張していたから。私は全然、いいお母さんじゃないのに……」
「え……? どうしてですか?」

 あんなにたくまくんを心配していたのに。たくまくんの性格からも、いいお母さんであることが伝わってきていたのに。

 疑問を口にすると、佐倉さんは自嘲するように微笑んだ。

「若くして子どもを生んだので、周りの風当たりが強くて。『しっかり子育てしなきゃ』って必死で、優しくするより厳しくすることのほうが多かったんです。私のせいで、この子まで悪く思われたくなかったから……」

 さっき佐倉さんは、高校卒業してすぐに結婚したと言っていた。今が二十代半ばくらいだから、二十歳前後で子どもを産んだということだ。私が大学生だった年齢で出産と子育てを経験してるなんて、もうそれだけですごい。

 風当たりが強いというのは、ネットを見ているとたくさん入ってくる情報だけど……。お母さんたちの苦労は察することができても、強い風を吹かせる人たちの気持ちは理解したくなかった。

 それならば、たくまくんの気持ちのほうがずっと理解できる。私にも子ども時代はあったからだ。私の母も物心ついたころには離婚していて、私のために苦労していたのを知っている。

「たくまくんは、お母さんの気持ち、わかっていたと思います」

 黙ったままではいられなくて、差し出がましいと思いつつも伝えずにはいられなかった。

「本当は優しいってことも、自分のために厳しくしてくれてるってことも、きっとわかってます。だって、お母さんの話をするときのたくまくん、すごくいい笑顔だったから」

 緊張しながら必死に言葉を紡ぐ私の肩を、一心さんの大きな手が包んだ。

「おむすびの言う通りだ。母親のことが好きじゃなければ、こんな場所まで桜餅を買いにこないだろう。人も多いし、小さな子どもがここまで来るのは大変だったはずだ。きっと、何度も勇気を振り絞ったのだろう」