「佐倉さんが好物なのは、こっちの桜餅じゃないのか?」
そう言って差し出されたものは、透明なパックだった。その中には、つぶつぶしたおはぎのような生地であんこを包んだ桜餅が並んでいる。半透明の桜色の生地からあんこの色が透けていて、素朴な和菓子といった感じ。
そうだ。これも確かに、桜餅だ。
「一心さん、どうして桜餅がもう一種類あるんですか?」
「手がベタベタしないもののほうがいいと思って、クレープ生地で巻くタイプの桜餅にしたんだが、中にはこだわりのあるお客さまもいるかもしれないと思ってな。念のため、こちらのタイプも用意しておいたんだ」
そして、一心さんはふたつの桜餅の違いを私たちに説明してくれた。
「クレープタイプのものを長命寺、つぶつぶしているものを道明寺と呼ぶんだ。長命寺はほとんど関東でしか食べられていないから、このタイプの桜餅を知らない人もいるんだ。もしかして、佐倉さんはほかの地方の出身なんじゃないのか?」
「あ、そうなんです。高校を卒業するタイミングでこっちに来て、そのまま結婚したものですから……」
「あっ、そういえば……。たくまくん、最初に来たとき屋台を覗き込んで、不思議な顔をしていたんです。あのとき、自分が考えている桜餅がないから戸惑っていたのかも」
だから、ひとりで買い物に来たのかと問われてもじもじしていたんだ。買うつもりのものが見当たらなかったから。そして、屋台で出している桜餅を『ちがう』と言ったのは――。
「そっか。佐倉さんが道明寺タイプの桜餅しか買ってこなかったから、たくまくんは長命寺タイプがあることを知らなかったんですね」
「ああ、そういうことだったのね」
響さんも佐倉さんも『ようやく謎がとけた』という顔をしていた。そしてきっと、私自身も。
なのに、佐倉さんから出てきたのは予想外の言葉だった。
そう言って差し出されたものは、透明なパックだった。その中には、つぶつぶしたおはぎのような生地であんこを包んだ桜餅が並んでいる。半透明の桜色の生地からあんこの色が透けていて、素朴な和菓子といった感じ。
そうだ。これも確かに、桜餅だ。
「一心さん、どうして桜餅がもう一種類あるんですか?」
「手がベタベタしないもののほうがいいと思って、クレープ生地で巻くタイプの桜餅にしたんだが、中にはこだわりのあるお客さまもいるかもしれないと思ってな。念のため、こちらのタイプも用意しておいたんだ」
そして、一心さんはふたつの桜餅の違いを私たちに説明してくれた。
「クレープタイプのものを長命寺、つぶつぶしているものを道明寺と呼ぶんだ。長命寺はほとんど関東でしか食べられていないから、このタイプの桜餅を知らない人もいるんだ。もしかして、佐倉さんはほかの地方の出身なんじゃないのか?」
「あ、そうなんです。高校を卒業するタイミングでこっちに来て、そのまま結婚したものですから……」
「あっ、そういえば……。たくまくん、最初に来たとき屋台を覗き込んで、不思議な顔をしていたんです。あのとき、自分が考えている桜餅がないから戸惑っていたのかも」
だから、ひとりで買い物に来たのかと問われてもじもじしていたんだ。買うつもりのものが見当たらなかったから。そして、屋台で出している桜餅を『ちがう』と言ったのは――。
「そっか。佐倉さんが道明寺タイプの桜餅しか買ってこなかったから、たくまくんは長命寺タイプがあることを知らなかったんですね」
「ああ、そういうことだったのね」
響さんも佐倉さんも『ようやく謎がとけた』という顔をしていた。そしてきっと、私自身も。
なのに、佐倉さんから出てきたのは予想外の言葉だった。